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判例データベース その3

判例の話からそれました。
法律の条文情報が調べらるようになった一方で、じゃあ判例はどうかというとこちらはまだまだであります。
そもそも判例はどうやって見ることができるのでしょうか。
判決になる前の裁判手続、これは自由に傍聴できることが原則です。裁判傍聴の仕方については別のページでね。
で、裁判手続の結果である判決文はどうやってみることができるか。
判決日に傍聴しにいくと、「主文」だけは誰でも聞くことができます。
でもこれではその主文に至った理由がわからないし、すでに終わってしまった裁判についてはお手上げですな。だから判決文をみせてくれーということになる。
判決文は裁判所に行けば見ることができます。
憲法八十二条は裁判の公開を規定してますからね、でもこれが「判決文の公開」の直接の根拠になるかどうかはちょっとよく考えてみないとわかりませんね。

判決文はどうやってみるのか。
まず裁判所に行きましょう。収入印紙百五十円と印鑑と身分証明書が必要です。
東京地裁であれば、民事訟廷記録係の中に記録閲覧室という窓口があるのでそこへ行きます。そこで申請用紙に

・申請年月日
・事件番号  平成○年(ワ)12345号 
・原告名  甲野太郎
・被告名  おかだよしひろ
・閲覧の目的  (その他に○をつける)
・事件の当事者との関係  (第3者と記入)
・申請人 住所 氏名
・閲覧等の部分 (全部と記入)

などを書き込んで窓口に提出し待つこと一時間から数日。記録係の部屋に判決文がない場合は、倉庫まで取りに言って探してこなきゃならないので時間がかかるわけです。全部紙の書類です。それが全部保管してあるのですから膨大な体積に違いありません。それでも原則みせてはくれるわけです。でもですね、すでに困ったことに気づいた方いますよね。
まず事件番号がわからない。自分や知り合いが当事者になっているならいざ知らず、そうでない限りは事件番号なんてわからないわけです。
東京地裁でなら裁判所で事件番号を調べる方法がないわけでもなかったです。14階の民事事件受付のフロアにコンピューターが置いてあって、当事者名等から係属中の事件を検索して事件番号を調べることができました、今はなくなっちゃいましたけど。当事者名の公開は別の項でも触れますが、プライバシーとの関係などありなかなか難しい問題です。
まあ、端末がなくなっちゃったのでもうどうしようもないわけです。
もっとも当事者名で検索ができたところで、今自分で抱えている法律問題と類似の裁判をやってる人の名前なんて知ってるわけないだろうというものです。
じゃあどうすればいいか、ためしに裁判所に電話してみましょう「あのーちょっと交通事故に遭ってしまって、参考になるような判例がないか教えてくれませんかあ・・・」・・・無駄です、教えてくれません。たいていは「弁護士会で法律相談をやっておりますので」「専門の判例雑誌が出ていますからそちらを参考に」てなセリフを頂戴することになろうかと思います「参考になるかどうか」なんてあいまいなこと裁判所の職員がいちいち相談に乗ってはいられませんし、職員はそのような職務にないわけで、あっさり断られても腹を立ててはいけません、逆にそんな質問の相手をまともにしてしまったら違法かつ税金の無駄というもの、そんなひまがあったら今やってる裁判をさっさと進めてくれというものです。

弁護士ならわかるのか
裁判所に行っても埒があかず「弁護士に訊け」といわれたので、じゃ、弁護士に訊いてみましょう。
弁護士に相談します「○○なことで困ってるんですが、裁判は勝てるでしょうか」。こう訊かれると弁護士もつらいところ。「絶対勝てるから私にまっかせなさい」なんていう弁護士はちょっと胡散臭いですね。「勝てませんね」なんてあっさり言われると、なんかやる気なさそうで頼む気しませんね。「勝てるかもしれないし、勝てないかもしれない」なんていわれるとわざわざ相談しにきたのが損した気分ですね。それでも「これこれこういう法律とこういう判例がありますから、勝つのは難しいでしょうね」なんていわるとちょっとがっかりですがあきらめがつきやすくていいかもしれません。
勝敗の見込みはいいから、どんな法律と判例があるの?と弁護士に訊いてみましょう。弁護士は法律の専門家ですから、どんな法律があるか答えてくれます。弁護士自身がそのとき知らなくても調べてくれます。素人には無関係としか思えない法律が重要だったりするので、やっぱり餅は餅屋、専門家に聞くのが手っ取り早い、ちなみに有料ですけどね。法律の専門家の弁護士だから判例にも詳しいです、素人よりは。有名で重要な判決は弁護士の資格をとる時にたくさん勉強しています。弁護士が知らない判決だって、どんな判例があるかどうか、調べてくれます。調べてくれるけど、調べきれるかどうかは保証の限りではありません。なぜなら、弁護士であっても判例情報の収集手段は限られているからです。

さっき裁判所に電話して冷たくあしらわれたときに「専門の判例雑誌がありますから」って言われましたね。そう弁護士はこの「専門の判例雑誌」を見るんですね。
「雑誌」ていうとなんだか少年ジャンプとか週刊新潮とかアンアンとかを連想しますが、そうではなくて、裁判所の判決を淡々と掲載している本が発行されています。これを普通は「判例集」といいます。
裁判所が編集して裁判所の外局(子会社?)である「法曹会」が発行している判例集は、「公的判例集」と呼ばれます。

最高裁判所民事 (刑事) 判例集
高等裁判所民事 (刑事) 判例集
下級裁判所民事裁判例集
とかいろいろあります。

一方完全な民間会社が発行している判例集は「判例雑誌」と呼ばれることが多いです。
判例タイムズ(判例タイムズ社)
判例時報(判例時報社)
これが二大総合判例雑誌
金融分野に限ったものとして
金融・商事判例(経済法令研究会)
金融法務事情(金融財政事情研究会・きんざい)
上の二つと合わせて四大誌と数えられることもあります。

そのほか
労働判例(産業労働調査所産労総合研究所)わたなべがずのりさんのご指摘で訂正
交通事故民事裁判例集(ぎょうせい)
とかいろいろ分野別に判例集が発行されてます。

詳しくはhttp://www.law.kobe-u.ac.jp/citation/04.htmを参照してください。

公的判例集・判例雑誌をどこで見ることができるのか、というとなかなか普通の人には難しい。近くの図書館で気軽にというわけには行きません。
弁護士だったらどうするか、主なものは自分で購入しています。自分で持ってなくても、弁護士会の図書館で閲覧するか、仕事仲間で持ってる人がいればそれを見せてもらいます。
それでもみあたらなければ出身大学の法学部図書館にいけば、閲覧できる場合が多い。みなさんも出身大学に法学部があるなら、困ったときは利用してみるのもいいでしょう。え、母校に法学部がない?そもそも大学出てない?そうですよね。法的災厄は学歴に関係なく降りかかります。こんなとき法学部のある大学を出た人だけが得をするというか、それ以外の人が判例情報にアクセスできないとしたら不公平ですよね。「法化社会」とかいうなら、弁護士増やすだけではなくてそのあたりもしっかり整備してほしいものです。ま、その問題は別のテーマとして置いておいて。弁護士なら大抵は法学部出身ですから、それらの判例集を調べられるとして、調べたらそれで完全かという問題が生じます。つまり「判例集には全部の判例がでてんのかよゴルァ」という問題です。答えをいうとノーです。ぜーんぜん少ないです。

ようやく判例データベースの話に近づきつつ、またまた続く・・・・

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Comments

初めまして,いつも楽しく拝見させていただいております。
ところで,「労働判例」を発行している会社って産労総合研究所(http://www.e-sanro.net/sri/index01.html )ではなかったでしょうか。
もしかすると雑誌違いかもしれませんが,私がときどき見ている労働判例は(http://www.e-sanro.net/sri/books/roudouhanrei/index.html )←これ,なもので…。
間違っていたらごめんなさい。

Posted by: わたなべかずのり | 2004.07.28 07:21 AM

わたなべ様、ご指摘ありがとうございました。
(株)産業労働調査所は1995年4月に現在の(株)産労総合研究所に名称変更したそうです。
神戸大学のサイトに掲載されている法律編集者懇話会の一覧表のデータが古くなっているということですね。

Posted by: おかだよしひろ | 2004.07.28 11:40 AM

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